本誌がセカイカメラを語るとき、いつも読み返すのがこの記事だ。ティム・オライリー氏が投げかけた「これは何年も夢見てきたものだ。問題はどうそれを実行するかだろう」という言葉は今も色褪せない。2008年9月、早いもので今から1年半前。奇跡のステージだ。
この夢の実現に頓智・は確実な歩みとチャレンジを重ねてきた。そして先日公開されたOpenAirと若干のトラブルを乗り越えてリリースされたVer.2.2。夢の実現にまた一歩近づいたセカイカメラはどのような変化を見せたのだろうか。※本稿は3月4日に行われたBootStrap1.0のイベントレポートにVer.2.2のレビューを交えてお届けする。
頓智・CEOの井口氏はイベント冒頭に「拡張現実空間に初めてオープンなプラットフォームが産声を上げる記念すべき日だ。」とOpenAirのAPI公開が大きな節目になると示唆した。
ここに至るステップとして頓智・社が仕掛けたイベントは数多い。井口氏が「街を楽しくする仕掛け、普通の日常の場所が拡張現実によって新しい、ファンタジーな空間になる」と語るように、地域と連動する企画は数多くよい結果を残したようだ。これこそが拡張現実が持つ強みであり、デスクトップに留まらないビジネスの「可能性」を感じさせるものである。
では今回公開されたOpenAirは私達にどのような未来を提供しようとしているのか。井口氏の説明では「普段つかっている便利なウェブサービスをセカイカメラの拡張現実空間に広げる。」つまり、セカイカメラがプラットフォームとなることで、私達は従来慣れ親しんだコンテンツに於いても、新しい情報アクセスの方法を手に入れることになるというわけだ。
「ウェブを開いて検索してページを見る、という体験性ではなく、セカイカメラのライブビューをその場で見てタップしてアクセスする。」これまで彼らのエアタグだけに許されていたこの体験をさまざまなコンテンツプロバイダに対して開放することの意味は大きく、そして極めて自然な展開だ。OpenAir for Publishersと命名されたプラットフォームのAPIはしばらく限られたパートナーにのみ公開されることになる。
さらにソーシャルとジオの組み合わせはFoursquareの話題を出すまでもなくホットだ。「セカイカメラはVer.2以降、セカイライフというライフ・ログを立ち上げた。それを使うことによってユーザーがフォローアップをすることができる。これによりフォローしているユーザー同士でエアタグのソーシャルな共有が可能になった。」このOpenAir for PublisherというプラットフォームのAPI公開が、従来からのコンテンツプロバイダーにこの可能性のあるマーケットへの参入を促進させることになるかもしれない。
勿論、立ちはだかるハードルは多い。多くは触れないが、Twitterがそうであったように、プラットフォーマーとしてのユーザー規模、システムのスケーラビリティは当然問われることになるだろう。
OpenAir for Publisherで既にスタートしているパートナーも幾つか紹介された。株式会社ぐるなび(ぐるなび)、株式会社ネクスト(HOME’S)、株式会社カカクコム(スマイティ)、株式会社東急ハンズ、株式会社リクルート(FOOMOO、カーセンサー.NET、じゃらん、SUMO)、Evernote Corpの6社、9サービスだ。飲食情報、住宅情報が複数ラインナップされ、提供されるコンテンツも豊富。
「豊富なコンテンツ」と聞いて沸き起こる疑念が、これ以上複雑になるタグの整理についてだ。Edo Segal氏のアンビエント・ストリーム論でも言及されている通り、重要なのは「フィルタリング」にある。後に説明するVer.2.2によるユーザー・フィルタリングの強化は勿論のこと、パブリッシャー側のアイデアも重要なポイントになる。
例えば今回パートナーとなったリクルート社の提供するFOOMOOは、その場所にある飲食店情報をただタグに変換して提供するのではなく、「時間帯」の概念を取り入れたアイデアを披露している。ラストオーダー検索と命名されたフィルタリングは時間帯によってラストオーダーが過ぎた店舗は表示しない、というシンプルなものだ。しかし、ジオ情報に時間帯情報を加えるやり方はスマートで、ユーザーの負担を減らしてくれるだろう。
セカイカメラ体験を必要とするユーザーニーズがどこにあるか頭をひねることになるだろうし、ここを突破したパブリッシャーがこのセカイを牽引することになるのかもしれない。
さて、話をVer.2.2に移そう。バージョンアップの内容は大きく2項目あり「1つ目がエアフィルタの強化、オーソライズタグがコンテンツプロバイダ毎に選択ができる。2つ目が処理の高速化。エアタグの密集地でも快適にエアタグが見られるよう、処理の高速化を実施する。」と説明されたように、OpenAirによりさらに複雑化することの予想されるタグへの対応がメインだ。
編集部では後日、実際にこのVer.2.2を片手に銀座を歩き、セカイにフィルタをかけてみた。なお、端末はiPhone3Gだ。
まず、フィルタリングの処理はオーソライズドのタグのみ(パーソナルなエアタグはすべて非表示)で見てみた。銀座らしく、飲食店の情報が大量に出ている。
次にフィルタリングの設定からオーソライズドタグを「ホットペッパー(FOOMOO)」のみとしてみた。ホットペッパーというカスタマイズされたオーソライズドタグのみが表示される。比較してもらって分かる通り、ホットペッパーを選択しなければこのタグには辿り着けないほど、大量のタグが画面を埋め尽くしていたことがわかる。
そのうちの一つを選択して情報を閲覧。その場でポケットに収納してみた。スクリーンショット上では分からないが、下のスクロールで営業時間、クーポンなどの店舗情報が確認できる。
着実な成長を遂げるセカイカメラ。時に不理解から批判を浴びることもあるが、彼らのチャレンジはセカイ変えることだ。日本のスタートアップがTechCrunch50というイバラの道を乗り越え、ここまで成長している姿を見せてくれていることを素直に喜び、応援したい。
なお、BootStrapイベントの後半に行われたパーティー会場では、拡張現実空間に現れた初音バグに向かって声をかけるちょっぴりシュールで楽しいデモが行われた。井口氏と初音バグのセカイ初のコミュニケーションを是非ご覧頂きたい。
※文中のARという言葉はすべて「拡張現実」に統一しました。
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